一日一膳(当社比)

RとJavaと時々数学

線形代数のトレースの話をする。

みなさんこんにちは。きょうは、いつにもましてゆるふわな話です。線形代数で出てくる、トレースを基底を取らずに定義してみるのが目標です。
まずは、よくみる定義から。
(定義一)
{\displaystyle k}を体とし、{\displaystyle V}{\displaystyle k}上の{\displaystyle n}次元ベクトル空間とする。このとき線形写像{\displaystyle \phi:V\rightarrow V}のトレース{\displaystyle {\rm Tr}\phi}とは、
{\displaystyle \phi}の、ある基底に関する行列表示{\displaystyle \Phi }の対角成分の和{\displaystyle {\rm Tr}\Phi}のこととする。

長いですね。なお、行列のトレースは既知としました。行列のトレースについて,次の性質は重要です。
{\displaystyle A,B}{\displaystyle n}次正方行列ならば、
{\displaystyle {\rm Tr }(AB)={\rm Tr}(BA).}
これをつかえば、先ほどの線形写像のトレースが
well -definedなことが次のようにわかります。
基底の取り方を変えた場合,{\displaystyle \phi}の行列表示は,{\displaystyle \Phi \mapsto P^{-1}\Phi P}\ (^\exists P \in GL_n(k))と変わるが,そのとき
{\displaystyle {\rm Tr}(P^{-1}\Phi P)=
 {\rm Tr}(PP^{-1}\Phi )={\rm Tr}\Phi}で、基底の取り方によらない。

っていうのが,オードソックスなやり方なのですが,基底取りたくない時は次のようにしましょう。
(定義二)
つぎの同型に注意する:
{\begin{eqnarray}{\rm Hom}_k({\rm Hom}_k(V,V),k)&\simeq&{\rm Hom}(V^\ast \otimes _k V,k) \\ &\simeq&{\rm Hom}_k(V^\ast,{\rm Hom}_k(V,k))
\end{eqnarray}}最初の変形は、{\displaystyle V}の有限次元性を使っていて、2度目の変形はテンソル積と{\displaystyle {\rm Hom}}の随伴です。尚,{\displaystyle V^\ast}{\displaystyle V}の双対の略記です。いまこしらえた同型による,
{\displaystyle {\rm id} \in {\rm Hom}_k(V^\ast,{\rm Hom}_k(V,k))}の像でもってトレース
{\displaystyle {\rm Tr} \in {\rm Hom}_k({\rm Hom}_k(V,V),k)}とする。

定義二では、トレースそのものを基底を取らずに定義しています。これがいつものトレースと一致することを見るには,{\displaystyle {\rm Hom}}の変形を基底をとってやれば良いのです。

基底を取りたくない時は,ぜひ定義二を使ってみてください。